木斛一本,指一本

モッコク(木斛)は庭木の王様と呼ばれているように,風格のある樹形に育ち,花が咲き,つやつやした美しい葉が好まれます。このモッコクにまつわる山を大切にしてきたお話を紹介します。 

2021.7月撮影

明治30年代のことですが,日清戦争で活躍し,当時最新鋭だった軍艦がそろって宇品港へ入港しました。艦名から三景艦(さんけいかん)の愛称で知られた旧日本海軍の巡洋艦「松島」「橋立」「厳島」の3隻です。場所はおそらく現在のグランドプリンスホテル広島の沖あたりだと思われます。 

厳島
松島
橋立

宇品島はすでに陸続きになっていたため,多くの市民が現在プリンスホテルの建つ大谷(樟ヶ谷)へ見物に押しかけてきました。この谷で耕作していた住人が畑を踏み荒らされるのを防止するため,山林の小さな雑木を伐って杭にし縄を張ったのです。その盗伐したことが山番(現在でいうと営林所員)に知られ,ついに体罰を受けることとなったと噂されました。 

それから住民は「モッコク一本,指一本」と唱えて山林の樹木に手を入れることを非常に恐れたと伝えられています。 

2021.9月撮影
2021.6月撮影

海岸に近い山地に自生するため,元宇品の山でも森の中で観ることできます。秋が深まると赤い実がみのり,深緑の葉とのコントラストが美しく,今からとても楽しみです。
しかし,美しくても枝を折って持ち帰ってはなりません。「モッコク一本指一本」ですからね。 

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会 
和子