元宇品の熱殺蜂球のその後・『激闘』
元宇品の熱殺蜂球のその後・『秋』 – アース・ミュージアム元宇品
晩秋の元宇品、経過観察をしているニホンミツバチの巣は、オオスズメバチの襲来でかつてない困難な局面を迎えています。…巣門には今日も途切れることなく数匹のオオスズメバチが出入りを繰り返しています。

観察の傍ら、色々な資料や養蜂家の情報などを調べ少しずつ理解が深まりました。オオスズメバチがニホンミツバチの巣を集団攻撃するのには、下記のような背景があるようです。
【オオスズメバチの暮らし】
春 冬眠から目覚めた1匹の新女王蜂が自分で小さな巣を作り、卵を産み、餌を取り、幼虫の世話をして最初の働きバチを育てる。
働きバチが育つと女王蜂は産卵に専念する。
夏 働きバチの数も増え、巣も大きくなる。
9月を過ぎると幼虫を育てるためのたんぱく質源として大量のエサが必要になるが、その一方で季節柄狩りの対象である昆虫やクモは減少する。
注)スズメバチの働き蜂は肉を食べない。巣に持ち帰った肉は幼虫に与え、幼虫は唾液腺から液体を出し成虫に与える。幼虫に餌を与えるかわりに幼虫から栄養をもらうギブアンドテイクの関係、これは「栄養交換」と呼ばれる。
秋 巣は最盛期、働き蜂の幼虫の他に大きくなった新女王蜂や雄蜂の幼虫もさらに多くの餌を求める。大量の餌を短期間に得るために他の種類の蜂(ニホンミツバチやキイロスズメバチなど)の巣を集団で襲うことにした。←今ここ
『ミツバチの秘密』 2023/9/1 高橋純一 株式会社緑書房
によると…
最初は1.2匹のオオスズメバチがミツバチの巣門の前でミツバチの働きバチを捕獲して自分の巣に持ち帰ることを繰り返します。
やがてオオスズメバチが誘引フェロモンを出し、多くの仲間を、ターゲットにしたミツバチの巣に呼び寄せます。呼び寄せられたオオスズメバチの集団は、ミツバチの働きバチを巣門の前でただ殺すようになります。数時間から半日程度でミツバチの働きバチ成虫をすべて殺したオオスズメバチは、巣の中にいる蜂児と一部のハチミツを自分たちの巣に持ち帰ります。襲われたミツバチの巣の中には昼夜関係なく複数のオオスズメバチが残り、すべての蜂児を持ち去るまで見張っています。
- 単独で捕殺する
- 仲間を誘引する
- 集団で攻撃、抵抗勢力の排除(働きバチ全滅)
- 攻撃した巣を占領する(巣内の幼虫をすべて略奪)
11月19日の観察ではまだ①の段階かと思われましたが、11月24日には、オオスズメバチの数も増えており、②の段階に進んでいるように思われました。ニホンミツバチの巣がオオスズメバチの集団攻撃を受けた場合、存続できる確率は50%…絶滅か存続か、形勢はどちらに傾くのでしょうか。
11月26日、オオスズメバチがミツバチを襲っています。
動画
カチッ、カチッと音がしてミツバチの翅がキラリと光って飛び散りました。スズメバチが去るのを待って周辺を探すと熱殺蜂球で殺されたとみられるオオスズメバチの死骸が1つ、さらに巣門の前にミツバチの体の一部が見えました。よく見ると他にもたくさん…特に切り離されたミツバチのお腹の縞々が目に付きます。
「…死んだミツバチも拾って帰ろう。」
私はその日から巣の周辺のすべての蜂の死骸を拾うことにしました。日中の暖かい時間はスズメバチが居るので、日が傾くのを待って訪問します。
蜂の死骸やパーツをピンセットで挟んで一つずつ拾うのですが、風は冷たく手は凍えるようでした。熱殺蜂球で死んだオオスズメバチの周辺にはたくさんのミツバチの死骸があります。11月の月末には、スズメバチの死骸と一緒にミツバチの腹部や翅の一部が見えましたが(肉団子にして巣に持ち帰っていた)、12月に入ると体のパーツが落ちていることは無くなりました。

「キイロスズメバチの熱殺蜂球の時はミツバチの死骸なんて一つも無かった…」
キイロスズメバチ相手の時はミツバチには随分余裕があったように思います。
小さなミツバチが熱殺蜂球の技で立ち向かってもオオスズメバチを蒸し殺すまでに大勢の仲間が嚙み殺されてしまうようです。オオスズメバチがいかに強大で手強い相手かが分かります。
12月5日に様子を見に行くと、
「なんと…オオスズメバチの死骸がここにも巣門の奥にも…」
言葉が続かなかったのは、3匹のスズメバチの周りにあまりにも沢山のミツバチの死骸があったからです。ピンセットでは間に合わず、持っていたプラスチックのスプーンで掬いました。

死屍累々の巣門の前
ミツバチはオオスズメバチの集団攻撃を受けたと思われます。秋も深まりスズメバチの巣も1000匹を超えるような最盛期を迎え、幼虫のために餌が欲しいのです。スズメバチはミツバチの働き蜂を噛み殺して抵抗勢力を一掃しようとしたに違いありません。その一方でニホンミツバチは熱殺蜂球で対抗したのでしょう。
「蜂をスプーンで掬うなんて…。」
こんな姿を誰が想像できたでしょうか…自分でも驚きながら考えました。
「3匹のスズメバチを蒸し殺しにするのに一体何匹のミツバチが犠牲になったのだろう。」容器の中に貯まっていくミツバチの死骸がカサカサと音を立てました。

カウントすると、オオスズメバチを熱殺蜂球で仕留めるとき、スズメバチ1匹について約30匹のミツバチの犠牲者(蜂)が出るようです。他の日も大体同じ数でした。死なないまでも弱った蜂も多いはず、このペースで襲われ続けるとミツバチの群れも勢いを失い、巣の占領が近いかもしれません。
スズメバチは気温15℃より低くなると活動が鈍ります。
一般的に、気温が18℃以上になると活動を始め、25℃~30℃の間で最も活発になるとされています。 しかし、寒さに弱いスズメバチは、気温が15℃を下回ると活動が鈍くなり、10℃以下ではほとんど動けなくなってしまいます。
「…こうなると寒さでスズメバチが動けなくなるまで、ミツバチが攻撃に耐えられるかどうかがポイントのようだ。」
3日後、朝の凍えるような寒さが和らぎ日中は気温も上がって来ました(12.6℃)。
「オオスズメバチが死んでいる、熱殺蜂球があったんだ!」
動画の画面左上、体を震わせている2匹のミツバチ、これは『シマリング』という敵に対する威嚇行動の一つです。
いつものようにピンセットで蜂を拾い始めた私ですが、思わず手が止まってしまいました。
「蜂が…やわらかい…」
ピンセットから伝わってくる感触がさっきまで蜂が生きていたことを示しています。
命がやわらかいなんて、今まで感じたことはありませんでした。目を凝らすと死んだミツバチの中に動いているものがあります。スズメバチもお尻の針がわずかに動いたように見えました。熱殺蜂球でスズメバチを蒸し殺すにしてもこの寒さです、ミツバチ達が体を震わせても中々熱も上がらず、その間に仲間はどんどん噛み殺されて…どちらにとっても余裕など微塵も無い『死闘』と言えるものだったでしょう。

数日後(気温10.8℃)の訪問です。巣の周辺は生き物の気配が全くありません。ここに居るのか居ないのか…ミツバチの巣がある木に耳を当てても風の音しか聞こえませんでした。
今日は12月18日、ミツバチの消息を求めて巣を訪問しました。
「ミツバチ達はどうなったのだろう、死んでしまったのかな、群れで逃げ出したかも…。」
道すがらイヌビワの黄色い紅葉が静まり返った森に明りを灯しているように見えます。この数年、イヌビワの落葉時期がどんどん遅くなっているのも気にかかるところです。

イヌビワの紅葉
思い返せば、初めて熱殺蜂球を観察した頃は、熱中症対策で氷を入れたクーラーボックスを携帯していました。今は防寒着に手袋とマフラー、風も北風に変わり冬がやって来たのです。到着!私は少し離れたところにリュックを降ろして巣に近づきました。
「あぁ…」

沢山のミツバチが巣を出入りしていました。
この夏の終わりから冬にかけてのニホンミツバチの激闘を気温とともに記録しておきます。日付を記した横軸の上段は最高気温、下段は最低気温、オオスズメバチの活動可能な気温15℃以上は黄色で、低温になるにしたがって青色が濃くなっています。
【熱殺蜂球で死んだと思われるスズメバチの数】 *印は巣を訪問観察した日

*気温は気象庁HP広島の過去の気温より
観察を始めてから11月初旬まで長期に渡ってキイロスズメバチの訪問が続き、時に熱殺蜂球で対抗したことが分かります。キイロスズメバチが突然見えなくなったのも、オオスズメバチの来訪によるものかも知れません。オオスズメバチの襲撃期間は20日程でしたが、熱殺蜂球が起こったと思われる頻度は高く、オオスズメバチの襲撃に対してミツバチはスズメバチが活動できなくなる寒さの到来まで抵抗を続け、スズメバチの撃退に成功したと思われます。
【参考】
http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/ine/ueno/suzumebachi1.html
『ミツバチの秘密』 2023/9/1 高橋純一 株式会社緑書房
都市のスズメバチ
捕食者スズメバチに対するニホンミツバチの防衛行動 −蜂球内でのスズメバチの死の原因解明−菅原道夫
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美

