元宇品の熱殺蜂球のその後・『秋』
9月の初めに熱殺蜂球を観察しました。死んだスズメバチの種類を特定するために再度訪問した様子は前述のコラムにまとめたとおりです。
その頃の私は「熱殺蜂球」という有名なミツバチの荒業は、色々な条件が合致した時の稀な事象で、シーズンを通して数回くらいはあるのかな…などと思っていました。
もう二度とあのような瞬間に出会うことは無いだろうと思いながらもミツバチの巣を再訪(2025.9.27)しました。
時々キイロスズメバチが様子を伺いに来ますが、ミツバチ達は平常運転で元気に暮らしているようです。巣を出入りする時に襲われないためなのか、蜜や花粉を集めた働きバチは小石を投げ込むように巣に帰ってきます。あまりの勢いに、後ろ脚にたっぷりとくっ付けた大事な花粉を落としてしまうこともあり、あらあら…。

働きバチの帰巣
巣の前の地面を見ると…
「あっ、また見つけた!これもキイロスズメバチだ。」
「貴方たち、また熱殺蜂球をやっちゃったの?」
熱殺蜂球で蒸し殺されたと思われる少し変色したスズメバチの死骸です。私が思った以上にミツバチは熱殺蜂球でスズメバチを撃退するのかも知れません。

2025.10.12
「うーむ、何日位に一回の熱殺蜂球をするのだろう?死骸を集めてカウントしていったら、ミツバチ達の熱殺蜂球をする傾向が分かるんじゃないだろうか…」
ここは見晴らしも悪く車道からも外れているのでめったに人も通りません。巣穴の前には防波堤のように木の根が幾重にも張り出し絡んでいるので死骸が風雨に飛ばされることも無いのです。

防波堤のように張り出した木の根
「…わざわざ蜂の死骸を拾いに来る人間なんていないでしょうし!」
ということで、私の『蜂拾い』が始まりました。統計的には数が少なく意味が無いかも知れませんが、備忘録としてまとめておくことにしました。
蜂はすべてキイロスズメバチでした
9/11 2匹(1匹は9/6に熱殺蜂球で殺されたもの)、9/27 2匹、
10/6 2匹、10/12 1匹、10/23 3匹、10/26 1匹、
11/2 1匹、11/8 0匹
9/6に熱殺蜂球を観察したので、そこを起点として期間を15日で区切り、熱殺蜂球が何日に一回起こったのか、その『傾向』を知りたいと思ったのです。

9月前半に15日に1回だったものが、10月前半には5日に1回、10月後半にはなんと3日に1回の割合で熱殺蜂球でスズメバチを撃退しているということになります。秋が深まるにつれてスズメバチの攻勢が激しさを増したようです。
10月末になると気温は急激に下がって、最低気温が10℃を割り、平均気温も14℃前後の日が続きました。ミツバチ達は相変わらず蜜や花粉集めに忙しい一方で、あれだけ飛び回っていたキイロスズメバチが巣の周辺からぱたりと姿を見せなくなりました。
「スズメバチ、一匹もいない、その気配も無い!こんなに寒くなったからかなぁ…蜂拾いもお終いかなぁ~」
「スズメバチは、新女王以外は死んでしまうだろうし、ミツバチも巣ごもりで越冬だし…」

11月初旬以降は、キイロスズメバチの姿が無いせいか死んだ蜂はおらず、私の興味もサシガメに移っていました。晴天が続き、寒い日や暖かい日を繰り返し…11月の半ば、サシガメの観察に来たついでにミツバチの巣に目をやった私は…
「これは大変だ…」
ミツバチの巣穴から低い翅音とともに大きな蜂が弧を描いて飛び去ったのです。オオスズメバチです。隠れて見ていると、巣の入り口からさらに2匹が這い出してきました。

巣門の2匹 2025.11.16
「こ、こ、こ、これは大変だ!」
オオスズメバチが3匹以上になると巣の前に陣取ってミツバチを噛み殺し始めます。大虐殺の始まりが『3匹』なのです。
オオスズメバチがミツバチの巣を見つけると、最初はミツバチを捕まえて肉団子にして持ち去るだけですが、続いて巣の入り口に餌場を示すフェロモンを塗りつけます。このフェロモンに誘引され仲間のオオスズメバチが群れで襲来し、集団殺戮へと発展するのです。オオスズメバチは、ミツバチの働きバチを皆殺しにして巣の中の幼虫やサナギを持ち去ります。
数十匹ほどのオオスズメバチが、4万匹のセイヨウミツバチ(熱殺蜂球の技を持たない)を2時間ほどで殲滅できるということですから、ニホンミツバチが集団攻撃を受けた場合、熱殺蜂球の技があるとしても巣の周辺にはおびただしい数のミツバチの死骸が転がるはず。しかし、今のところは巣の周辺に目に付くようなミツバチの死骸は見えません。
「まだオオスズメバチの集団攻撃は受けていないのかも知れない…」
その日はそれ以上スズメバチの数は増えませんでしたが、巣の入り口に降り立った数匹は直ぐに姿が見えなくなりますから、奥へ奥へと侵入しているのでしょう。
これからニホンミツバチの巣はどうなっていくのでしょうか…

巣を伺うオオスズメバチ
心配になって3日後に訪問してみました。物陰から見ていると1匹のオオスズメバチが出てきました。ミツバチを捕らえたのでしょう…前脚で抱えたものにかぶりついています。脚や翅を切り落とし、胸の筋肉を団子にして持ち帰るつもりです。何とも言えない気持ちでオオスズメバチが飛び去るのを見てから私は注意深く巣に近づきました。
「あーーっ、熱殺蜂球で!」
なんと巣門の前にはオオスズメバチの死骸が転がっていたのです。
「ニホンミツバチは世界最強の蜂と言われるオオスズメバチも熱殺蜂球で殺したんだ!」知識としては知っていましたが、目の前の死んだスズメバチを見ると込み上げてくるものがあります。耳を澄ませると巣がある木の中心部からウォーンというミツバチの翅音が聞こえました。
ミツバチの集団の翅音が聞こえます。2025.11.19
感激とか驚きとか尊敬のようなものが入り混じった感情が静かに熱く湧き上がってきました。
私は「蜂拾い」を再開し、5日後に巣を訪問しました。熱殺蜂球で死んだと思われる蜂の死骸は2匹、オオスズメバチでした。気温17.6℃、湿度は67%です。巣門には今日も途切れることなく数匹のオオスズメバチが出入りし、時々飛び去って行きます。

巣の周辺をうろつくオオスズメバチ 2025.11.24
巣門を破られてスズメバチが巣の内部に侵入してしまったら…籠城しているミツバチは全滅してしまうのかなぁ~その前に寒さが厳しくなって新女王以外のスズメバチは死んでしまうのかなぁ~
このミツバチの巣は全滅を免れるのでしょうか、スズメバチの攻勢に巣を捨てて逃げ出すのでしょうか…
がんばれニホンミツバチ!そうしてスズメバチ達にも敬意を!
秋の陽にツブラジイの樹冠が輝いています。私の観察も続きます。
【参考】
オオスズメバチの「警報フェロモン」成分 – インタビュー – 環境goo
都市のスズメバチ
捕食者スズメバチに対するニホンミツバチの防衛行動 −蜂球内でのスズメバチの死の原因解明−菅原道夫
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美

