春山の襲色目(かさねいろめ)【タブノキ】
冬から春に向かう元宇品の照葉樹林、寒くても観察できる楽しいことがいくつもあります。秋に葉が落ちたあとが動物の顔に見える葉痕や色々な冬芽もすてきです。
この時期、私が最も生命を感じるものが木々の「芽生え」「芽吹き」です。「めばえ」は物事の始まりの意味でも使用されます。そして,春の初めに元宇品で最も芽生えや芽吹きを感じさせてくれる植物が「タブノキ」です。
木々が冬越しのため形成する耐寒性の芽を冬芽と言います。タブノキの冬芽は卵形~長卵形の頂芽で,「混芽」と呼ばれ,芽の中に花と葉が納められています。冬の寒さを凌ぐため幾重にも鱗のような紅褐色の芽鱗で包まれています。
平安時代の高貴な女性は,女房装束(十二単)という衣装を着ていました。当時の女性は,この衣装で何色もの色を重ね着てファッションを楽しみました。この色の組み合わせ方を襲色目(かさねいろめ)といい,四季を表現した組み合わせになっています。
タブノキの冬芽は、幾重の芽鱗に包まれてこの女房装束の襟元のようで,その配色は「紅梅の匂い」と呼ばれる襲色目とよく似ています。
タブノキは冬芽が比較的大きいので芽鱗やその仕組みの観察にもってこいの木です。これから初夏にかけて,黄色い花が咲き新緑に映えてとてもきれいです。
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
和子