小さな迷子の訪問者【オオシロカネグモ】
元宇品の東側中央部に中ノ谷と呼ばれている谷があります。尾根あたりまで畑や墓地が続き開発されているにもかかわらず,自然が豊富で珍しい動植物も観察されます。ここには花壇もお世話されていて,5月にはたくさんのアジサイの花が咲きとてもきれいです。
ある朝,その畑で剪って来たというアジサイをひとかかえほど頂き,ベランダのバケツに浸けておきました。部屋中を大好きなアジサイを飾る喜びで夢中になったのは言うまでもありません。
その2日後,水やりでベランダに出ると,クワの木に見慣れないクモが網を張っていたのです。綺麗な円網です。今まで我が家に現れるクモはチョロチョロ歩いていたり,天井からぶら下がったりしている小さな黒いクモばかりでした。
ベランダのクモは,足が緑色で長く身体は金色で縦に黒い線がはいって,まるで金属の鎧を身に付けているように見えました。観察のため捕まえて容器に入れた時と,直ぐにクワの枝に戻した時とは,背中の模様はあきらかに違っていました。
このクモはオオシロカネグモで山辺の渓流などに多く観られ,刺激を与えると背中の黒い線が太く変化するそうです。記憶を辿ってみると,1年前の観察会で話題になった中の谷の綺麗なクモを思い出しました。その時の記録を確認すると名前も同じオオシロカネグモ。ああ,この子は中の谷からアジサイに付いて来てしまった迷子のクモなのだと確信しました。そしてそれがハッキリ分かった途端に急に愛おしくなりました。
マンションのベランダでは餌の虫も来ないし,少しでも早く元に返してやらなければ弱ってしまいます。元宇品から我が家に迷い込んだ大切な宝物を,梅雨の晴れ間を待って中の谷のアジサイに送り届けました。
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
佐藤美佐子