エノキのふわふわアブラムシ

5月の晴れた日に自然観察ガイドのお友達と元宇品の西海岸を歩いていました。

草むらでヨコバイの脱皮殻を見つけてから、草むらや葉の上の小さなものが私の春のマイブームとなっています。

宇品島の西海岸

「あの葉の上の小さな白いふわふわは何でしょう?」

背の高いお友達が木の葉を1枚取ってくれました。

「あっ、虫?」「えっ、雪虫??」

雪虫は冬の初めに元宇品で飛んでいるのが良く見られます。こんなぽかぽかの5月に雪虫なんて変ですよね…といいながら、思い出したことがありました。元宇品でG7があった頃、山の上の車道のガードレールで時おり雪虫(?)を見ていたのです。不思議に思って

「ガードレールにふわふわの小さな虫がいたんですけど…」と聞きまわったのですが、良く分からないまま放ったらかしになっていました。

「この木は何ですか?」「葉がざらざらで葉脈が左右非対称、エノキですね。」

食草が分かったので名前がすぐに分かりました。この虫は『エノキワタアブラムシ』

「へーっ、この虫が? へーっ、アブラムシ?」

エノキの葉裏

調べてみると驚くことばかりです。この白いふわふわは虫が分泌している綿状のワックスで、翅のある有翅型と翅のない無翅型がいるそうです。

アブラムシといえば、あの薄緑色のゴマのような虫が植物にびっしり…私は大抵この段階で遠い目になって去っていましたから、アブラムシに翅なんてあったっけ?

目の前の虫には翅脈が黒く縁取られた翅が見えますから、有翅型か…。俄然アブラムシに興味が湧いてきました。

体の後ろに翅が見えます

アブラムシの生態をおおまかに…

卵で越冬して春にふ化したアブラムシはすべてメスです。

単為生殖でメスがメスを生んでどんどん増えます。アブラムシはお腹の中でふ化するのでお母さんの体から出てくるときは虫の形をしています(産仔)。

増殖が繰り返され虫の数が増えすぎたり、寄生植物が弱ったり、時期が来たりすると翅のあるメスが出現し別の植物に移住します(最初の寄生植物と二次寄生植物が異なる場合がありますが、エノキワタアブラムシの場合は、寄生植物はエノキのみ)。

うまく二次寄主植物に順応すると翅を落とし、またまたメスがメスを生んで繰り返し増殖します。

秋ごろになると二次寄主植物上でオスとメスを生むことができる翅のあるメスが出現します。このメスが一次寄主に集まりオス・メスを産仔します。

彼らは成虫になると交尾し一次寄主に産卵し、卵は越冬します

「えーっ、お母さんのお腹の中でふ化した子どもの体内にはその時すでに孫がいるってー!」ロシアのお人形のマトリョーシカみたいにお母さんの体内には子どもがいて、その中に孫がいるという…この驚異的な増え方は、生態ピラミッドの底辺を支えるアブラムシたちの生存戦略でもあるのでしょう。

大増殖!

観察のため容器に入れて連れて帰ったアブラムシたち、数枚の葉にぽつぽつと見えていた白い綿が、3日後には大小入交って大増殖して私はびっくりしてしまいました。

【参考】

アブラムシの生活環と栄養 | 高知大学農林海洋科学部化学生態学研究室

松本嘉幸 突然増えるアブラムシの秘密 自然保護 No.545 MAY/JUN

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会

副代表 畑 久美