元宇品のシンジュキノカワガ

長い長い夏が終わり、宇品島に秋がやってきました。

10月の最初の日曜、今日はガイド仲間で誘い合わせて自由気ままに見えるものを観察して歩いています。

「大きな蛾がいますよ」

近寄ってみると、魅力的できれいな蛾が木に留まっていました。密集した体毛はビロードのような質感で光を吸い込んでいます。閉じた翅(はね)の両側は真っ黒く、前翅の合わせの隙間から後翅の鮮やかなオレンジ色と翅の先端の群青色が覗いています。

「何の蛾でしょう…翅を開いてくれたら良いのに…」

「飛び立つときに、地味な姿からいきなりオレンジ色が現れることで目眩ましになるらしいですよ!」ガイドさんが教えてくれました。

蛾はあっという間に飛び去ってしまいました。

家に帰ってから調べてみました。とりあえず画像検索…。

「んっ、これか…。」

「シンジュキノカワガ」いつもながら片仮名でつぶやくと呪文のようです。

「神樹木の皮蛾…」

この蛾は中国原産で、低気圧や前線などの自然現象で中国大陸南部から日本へやってくる、いわゆる「遇産蛾」だそうです。大きくて綺麗な蛾なので人気があるそうで、図鑑の表紙にも載っていました。表紙の右上隅の蛾が翅を開いたシンジュキノカワガです。

「幼虫はシンジュの葉を食べるんだな…。」

私たちガイドが観察しているシンジュという木は、ニワウルシ(ウルシのようにかぶれないから庭にも植えられる)とも言われ、宇品島の車道脇や海岸遊歩道にいくつかあります。

冬に見られる葉痕は特大のハート形で、その直ぐ上に小さな丸い冬芽が付いている様が、帽子を被った動物の顔に見えて可愛らしく人気があります。

そういえばシンジュも中国原産だった…。

インターネットの情報をいくつか見ていると…

「これが幼虫か…、ちょっと待って!」

偶然にもその近くで名前のわからない毛虫の写真を撮っていました。黄黒の警告カラーで、長い毛の「毛虫」ですが、これがシンジュキノカワガの幼虫です。

見かけによらず毒は無いそうです。さらに調べていくと…

「うわーっ、さなぎが鳴くらしい!」

こうなったら再度現地に行ってこの目で、いや、この耳で確認するしかありません。

雨が上がるのを待って、宇品島の南側の海岸遊歩道に來ました。

「あった、これに違いない!」

幼虫は木の皮を剥がし、自分が出す糸で木の皮を紡いで繭を作ります。木肌にくっ付いた平べったい繭は木の枝そっくりです。

ドキドキしながら繭をそっと触ってみました。残念ながら既に羽化して中は空っぽでした。

5日後、お天気が崩れる前に元宇品を訪問してみました。先日、大きな幼虫がいたので新しい繭ができているかも知れないと思ったのです。

想像以上の大きな音にびっくりした私です。羽化した後の繭を観察してみました。繭の手触りは軽い和紙のようで、内側には糸屑をまとめたような模様も見えます。

繭の内側、サナギの頭の辺りには筋を並べた構造があり、それを「楽器」と表現する人もいました。「サナギが鳴く」というのは、刺激に反応してサナギが体を動かし繭を擦って大きな音をたてるということでしょう。

『くらべてわかる蛾』 横田光邦 諸岡範澄、筒井学、阿部弘志 山と渓谷社

広島県緑化センター “緑化だより”《 友の会ニュース 》 (ryokka-c.jp)

きべりはむし 32(2)7-8 より 安達誠文 

伊丹市昆陽池町で発生したシンジュキノカワガ

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会 

副代表 畑 久美