宇品島の歳時記【師走 ツタ】
秋こそあれ 人はたづねぬ 松の戸を いくへもとぢよ 蔦のもみぢ葉 (式子内親王)
秋になるとナツヅタの葉は紅色に色が変わります。その姿が秋の風物詩の楓に似ているため,別名を蔦楓(つたかえで)と呼ばれます。 クリスマス寒波で宇品島でも積雪がありました。この寒さにより,紅葉していた葉も落葉しました。
蔦は,他の樹木や建物に「つたって」どんどん成長していくことからその名が付けられました。生命力が強く縁起のよい植物として,現在でも家屋の装飾などに使われています。
ツタは,葉の付いている所の反対側に枝別れした巻きひげができて,そのそれぞれの先端に円盤状の吸盤がつくられます。この円盤を,例えば建物の外壁等に吸着させて茎を固定しています。この吸着の力は吸引ではなくて,何か粘着性の物質を出して貼付けているようです。
宇品島にはナツヅタと似た植物にキヅタが観られます。常緑で冬も青々としているため,フユヅタとも呼ばれます。
キヅタはウコギ科の植物で,花は同じウコギ科のカクレミノの花と似ています。
若いキヅタの葉は浅く裂けて3~5角形になり,ナツヅタの葉と似ていますが,古い株の葉は菱形に近い卵形で裂け目はなく,先端が鈍く尖ります。
ツタは,繫殖力から子孫繁栄の意義や,その美しさを称える尚美的意義をもって,多くの人々に愛され受け継がれ家紋に使われています。私が受け継いだ家紋も蔦紋でしたし,宇品島に古くから移り住んだ坂本一族の家紋も丸に中陰蔦でした。
いつもは家屋や周囲の塀によじ登り,葉を落とす厄介者の存在でしたが,昔から愛でられていた植物ということを知り,愛着がわいてきました。
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
坂谷知子