花ボタンの散歩道


雨上がりの宇品山、時々どこからか風に乗って桜の花びらが降ってきます。私はヤブツバキの散歩道を歩いていました。

椿、椿、椿…それが途切れると、?、?、?何か白いものが散っている…
これは何?そこらへん一帯にクリーム色の小さな花の“ボタン”のようなものが散らばっています。


上から降って来たのかな…見上げても樹冠が高くどの樹木からなのか良く分かりません。
雄しべが放射状にピンと張ってクリーム色の梅の花のようです。見れば見るほど本当に可愛い!


写真をガイド仲間に展開して情報を募るも、既読は付くけど返答はありません。思い切って植物担当のガイドさんに電話してみました。
「西海岸から展望台に上ったのです。車道に行く歩道の中ごろに、白い小さな梅の花のようなものが沢山落ちていて…これって何でしょうか?」「1 ㎝足らずの花?がたくさんたくさん落ちていて…雄しべが⾧くて本当に可愛いです」
…わずかな沈黙の後「クロキの花!…咲いていたのね。きっと前夜の雨でまとまって落ちたのでしょう。」「えーっ、クロキですか!」


クロキは宇品山の照葉樹林の代表種で、すべすべの焦げ茶色の木肌は森を歩くとあちらこちらで目に付きます。植物に疎い私でも馴染みの樹木でした。うーむ、そう言えばガイドの会が編集した『アース・ミュージアム元宇品 ミニガイドブック』の春の頁、説明書きには
「春になると一番最初にクロキの花が咲きます・・・」何十回と読み、いつも写真を見ていたのに、人間って迂闊な生き物だなぁ。こうなると、花が咲いているところを見ない訳にはいきません。クロキはかなりの高木です。森を歩き回ってクリーム色の落花を発見、見上げるとあれが花のようだけど遠いなぁ。

もっと近くで見たい!写真を撮りたい!地面を探し、空を仰いでクロキの花を探します。山の稜線から探し始めてプリンスホテルに近づいた頃、斜面から地上近くに傾いた枝を見つけました。

調べてみると、「花にはほとんど柄がなく、花序(枝につく花の配列状態。また,花をつけた茎または枝をいう)の軸も短いので花が密集してつく。」とあります。確かに小さな花が塊になって咲いています。花が抜け落ちた後の雌しべを見つけました。

写真の説明:今、まさに花が抜け落ちようとしています。その上には既に花が落ちて雌しべだけになったものが写っています。


なるほど・・・だから落花の真ん中に小さな穴が開いていたんだ!
次の日、ガイド仲間に会うと「良く知っている木なのに、気が付きませんでした・・・」とか、「可愛い落花の写真を見て、展望台に行きましたが、どこにあるのか分かりませんでした」と。行ってみると、クロキの落花達は既に萎びて茶色くなっていました。私が出会ったのは、
雨上がりの数時間の奇跡のような光景だったのかも知れません。大きさは丁度シャツのボタンくらい、薄絹にこんなボタンを並べて付けたブラウスなんて素敵ですよね。

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美