そこにシダがあるから『オニヤブソテツ』

イギリスの著名な登山家であるジョージ・マロリーがニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「なぜ、山にのぼるのか?」と問われて、「そこに、山があるからだ!」と答えたのは余りにも有名な話です。


私が、この夏にシダの勉強を始めた理由を上手く説明は出来ません。数十年も元宇品に通っているのに、シダは見わけがつかないなぁ、あんまり名前も覚えないし…1年を通じていつも目に入っているのに、見ないのか、見えないのか?このまま一生、在るものを無いものにしていても良いのかしら…というような焦燥感にも似た想いがあったと思います。
景気付けに新しいシダの本を購入し森を幾度か訪問しましたが、お勉強は中々進みませんでした。
とある初冬の日曜日、歩きなれた小径で何故かふとシダが目に留まりました。周りのシダよりもつやつやして緑色が濃く逞しさを感じます。

葉裏を見ると胞子を作る粒粒(胞子嚢)がいっぱいあります。


至極普通のことなのに、私はなぜか嬉しくなってたくさん写真を撮りました。
帰宅した夜、写真を見、図鑑を眺め、「うーん、鋸歯が目立たないし、胞子嚢の散らばりようはどうだろう…ヤブソテツか?それとも…」「ヤブソテツ、ミヤコヤブソテツ、テリハヤブソテツ、ナガハヤブソテツ、オニヤブソテツ、ヒメオニヤブソテツ…」ヤブソテツの類もこんなにあるのか、名前を口に出すと寿限無のようだな…
ヤブソテツは、ガイド仲間と元宇品を歩きながら良く耳にしたシダの名前です。
変形菌の先生にお伝えすると、包膜の真ん中の色はどうですか?こげ茶色ならオニヤブソテツの可能性もありますよ、と。
「そうだ、包膜だ!」
胞子嚢群を包み込んで守っている包膜はそれぞれのシダの特徴を示しています。撮った写真はちょっとピンぼけ、週末を待って現地に入りました。山を歩きあちらこちらに同様のシダを見つけて喜ぶ私!

シダの全形
葉の表
葉の裏

ちょっと失礼…葉を裏返し、ルーペで観察すると

包膜

小さなドーナツの真ん中がこげ茶色、あぁ、オニヤブソテツ!
小さな経験から図鑑が読めるようになり、風景の中からシダが見えるようになってきました。小さな経験が私には大きな収穫でした。誰か、「なぜ、シダの勉強を始めたのですか?」と尋ねてくれないかしら…「そこにシダがあったから」、と答えてみたい元宇品の午後でした。

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美