元宇品のツチハンミョウ

晴れた晩秋の元宇品です。「あれっ、綺麗な青い虫が…」

藍色の金属光沢で覆われた体が秋の陽に輝いています。何の虫だろう?

2023.11.26

全体の形から甲虫の仲間だろう…

背中の翅は短くお尻が丸出し、ハネカクシの仲間?

胸から上が細長い感じだから、オサムシの仲間?いやいやちょっと違う。

特筆すべきはその変わった触角です。突き出した長い触角は節を重ねたようで、その中ほどが太く厚くハート形になっています。

「甲虫」「触角の途中が太い」と入れ、画像検索しました。

んっ!ツチハンミョウか…触角の形状からこの虫は『ヒメツチハンミョウ』のオスのようです。交尾の際、触角の太くなった節にメスの触角をはさみ、小刻みに震わせながら上下にしごくという特徴的な行動をするそうです。ヒメツチハンミョウは秋に出現しそのまま成虫で越冬、その後早春から夏にかけて現れ交尾産卵。上翅は短く後翅は退化して飛べません。

名前はハンミョウとありますが、夏の野道で人の前を行き「道教え」とも言われる極彩色のハンミョウとはまったく異なる昆虫です。

無毒のハンミョウ

ツチハンミョウは体内にカンタリジンという猛毒を持っていて、敵に襲われたときに脚の関節などから毒を滲ませます。素手で触ると火傷のようにかぶれるとか…。

「カンタリジン!」この毒には聞き覚えがありました。この夏ニュースで警告された『見た目』が赤いクワガタの「ヒラズゲンセイ」、南方系の種ですが近年本州の温暖地にも分布を広げていて、体液にカンタリジンという猛毒を持つので要注意と…。あぁ、ヒラズゲンセイもツチハンミョウ科だったのか!

興味が出たので勉強してみました。

登場人物(昆虫)はおおよそ3人(種)

ヒメツチハンミョウ、コハナバチ、ヒメハナバチ

5月頃ヒメツチハンミョウのメスが4000個ほどの卵を土に生みつけます。

6月頃孵化した幼虫が一斉に地上に出て、コハナバチの巣を取り囲み、蜂が出て来るとその体にびっしりとしがみつきます。コハナバチを乗り物にして花に運ばせ、花を訪れるヒメハナバチにしがみついてその巣に侵入する企みです。

体長僅か1㎜の幼虫たちの寿命は4日、花に来た毛深い虫に相手かまわずしがみつきますが、目指すヒメハナバチに出会う機会はあるのか無いのか…。

これが、ツチハンミョウのギャンブルということか、乗り物のハチと寄生するハチは別種なんだ。

幸運にもヒメハナバチのメスにしがみつくことができた幼虫は、一緒に巣に侵入。花粉ダンゴに産み付けられたヒメハナバチの卵が孵るとそれを食べ、巣の中の花粉ダンゴも食べて成長します。ダンゴを食べつくすと別の巣を探し出し、ヒメハナバチの幼虫とダンゴを食べます。

9月半ば頃、やがてその巣を出て自分の巣を作り蛹になります。

10,11月頃、ヒメツチハンミョウの新成虫がひっそりと地上に出て来ます。

4000個の卵から成虫になれるのは1、2匹とか…

晩秋の谷間 

この宇品島のどこかにヒメハナバチの営巣地があるんだ…

私が出会ったのは、偶然と幸運に賭けた危険なチャレンジを勝ち抜いて、こうして地上に出てきた新成虫のヒメツチハンミョウだったのです。

参考

つちはんみょう 舘野 康 偕成社

ツチハンミョウのギャンブル 福岡伸一 文芸春秋

「ファーブル昆虫記6 ツチハンミョウのミステリー」集英社

ツチハンミョウの話 – 廊下のむし探検 (fc2.com)

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会

副代表 畑 久美