海辺の生き物【タテジマイソギンチャク 】
潮が引いた元宇品の磯、丸くて小さな不思議なものがたくさん見つかります。
丸くプルンとした一粒ゼリーのような・・・これは「タテジマイソギンチャク」です。元宇品では潮間帯の上部に集団で見つかることがよくあり、直径3㎝位の大きなものから5㎜位の小さなものまで色々です。
タイドプールを探すと、花のように触手を開いているものが見つかります。タテジマイソギンチャクの触手はヨロイイソギンチャクやベリルイソギンチャクの触手に比べ先端が尖って見えます。
タテジマイソギンチャクは襲われると、体壁の小さな穴から槍糸という刺胞が密にある攻撃用の糸状の器官を放出し敵に絡みつきます。また、縄張り争いには「キャッチ触手」という通常の触手より数倍も太く長い攻撃用の触手を出して戦います。
よく見ると、深緑色の体壁に名前の通り縦縞が放射状に何本かあります。
よく見かけるのは12本(12本が原型だろうと言われています)、写真のように60本もの縞があるものや、全く縞が無い個体も見つかります。見ての通り体は放射相称に思えますが、中には10本縞など左右相称の個体があります。
タテジマイソギンチャクは「縦分裂」という足盤がちぎれて(同時に体も縦にちぎれて)分離再生するのですが、再生の初期に、ちぎれた体の中に「管溝胃嚢」という内臓器官があるか無いか、で「放射相称」か「左右相称」が決まるということです。
イソギンチャクの縞が揺らいでいます、縦分裂を始めたのでしょうか…
今日の生物に見られる左右相称性・・・つまり体の左右がほぼ同じである形状の発達は、動物の進化にとって重要な一歩でした。体を効率的に組織できますし、運動能力の向上とともに、感覚器官が体の前方で発達し「頭部」が形成されることで、効率的に餌を探したり捕ったりできるようになるのです。
ヒト、タテジマイソギンチャク、ミズクラゲの体の構造
参考:イソギンチャクの体の構造に“相称性の二刀流”を発見
-左右相称と放射相称の両方をこなす体づくりの数理モデル-より
数多くの動物の体は、左右相称が基本形となっています。祖先的な位置付けにあるイソギンチャクやクラゲは放射相称の構造をしていますが、動物の体の構造がどのようにして放射相称から左右相称に変化したのか?という進化の謎の解明にタテジマイソギンチャクが貢献しています。
参考
イソギンチャクガイドブック 内田紘臣/楚山勇 TBSブリタニカ
イソギンチャクの体の構造に“相称性の二刀流”を発見-左右相称と放射相称の両方をこなす体づくりの数理モデル- 理化学研究所/大阪大学
高知大学バーチャル自然博物館 動物系統学ノート/動物界の分類体系/後生動物の進化
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美