小さな迷子の訪問者【オオキンカメムシ】
10月の16日は宇品神田神社の秋祭りでした。朝から太鼓の音が聞こえています。
自宅前の通りをお神輿が通るのかな,とベランダに出てみました。そのついでにベランダの花木に水やりを始めてふと見ると,「幸福の木」(ドラセナマッサンゲアナ)の葉にオレンジ色の虫がとまっています。
それは小さなオオキンカメムシでした。貴重な昆虫で,近くでは元宇品でしか観察したことがないのに「本当に君はオオキンカメムシ?何故こんなマンションのベランダにいるの」と目を疑いました。
自然観察会の仲間が,度々元字品にオオキンカメムシが越冬する木を見に行ったようですが,「今年もまだ帰ってきてない,暑い日が多かったからかしら?」とガッカリして帰っていたのに。「何故君はこんな所にいるのですか?」
私はこの偶然に興奮して,元宇品に持って行き木に放とうか,捕まえて育てるとしたら餌は何をやればいいのか,この虫をどうしたらよいか判断ができません。
虫に詳しい仲間に尋ねたところ,自然のままにと教えられ納得し,それから2時間の観察が始まりました。
虫はじっと葉に止まったままです。休憩しているのか少しも動きません。見ている私は暑くてたまりません。せっかく目の前にいてくれるのに何を観察すれば良いのか分かりません。
じっと見ていると,黒い脚に白っぽい毛が生えていて触覚が三段にくびれている。足の先がふたつにわかれている。大きな眼と顔は三角形で太陽の光の当たり方でピンクと ブルーの蛍光色に変化する。横腹には綺麗なピンクの三角の模様が並んでいる。
しばらくすると腹のピンク模様がドキドキと躍動を始め,黒い後翅をお尻のほうに出して羽ばたく動作をしたかと思うと,あちこち動き回り突然ベランダの手すりに向かって飛びました。しかし,ベランダの外には飛び出せず脱出は失敗,それでも金属の柵を上へ上へと上り詰めるとそのまま二度目の大休憩が始まりました。
考えてみれば最初にとまっていた場所は夏のような日差しが暑すぎました。
二度目の大休憩は日陰の涼しいところでした。
長い休憩の後,手すりの上によじ登りお腹のピンク模様が小刻みに動き始めたその時、元宇品の方角ではない東の空に消えて行きました。
心が震えた幸せな時間の贈り物でした。
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
佐藤美佐子