倒木に寄添って 

夏の終わりに宇品山稜線の大木が倒れたと連絡がありました。 

観音寺から灯台前まで車道は通行止めになってしまいました。倒木の場所はカゴノキより少し北の斜面です。十数メートルの大木が車道に向かって倒れたので、車道に沿って張ってある電線を押し下げてしまいその復旧に時間が掛かるということでした。 

現地に行ってみると、地上から2,3mのところから幹が真っ二つに折れています。倒れる瞬間には大音響が響き渡ったことでしょう。 

倒れていたのはツブラジイの大木でした。幹や枝は切断されて車道脇に片付けられていました。

「ああ、やっぱり…また、ツブラジイだ…」 

この春、森の深い所の大きなツブラジイが自然に倒れ、ガイド仲間で現地を見に行ったことを思い出していたのです。 

「コジイ(ツブラジイ)って案外寿命が短いみたいなの…クスノキやスダジイは100年超え、200年超えの古木が沢山あるんだけど、それに比べてコジイは大体80年位らしいのよね…」植物のガイドさんが続けます。「今年が戦後78年でしょう、宇品山では戦時中に大規模に伐採されて造られた陣地や畑がその後放棄され…、その頃芽生えた樹木が同じように7~80歳を迎えると考えると、これから先の数年で大きなツブラジイはどんどん倒れて行くかも知れませんね。」 

調べてみると、ツブラジイは上への成長が著しく、広く樹冠を展開することで陽光を占有するが、そのため「頭でっかち」で樹元が弱いことに加え、幹の内側は柔らかで菌の阻害物質が少ない、したがって木材腐朽菌に害されやすく、中空になった幹は折れやすくなるとか。折れた個所を見ると、確かに内側は変成しているようでした。 

天を仰ぐとぽっかりと空が見えます。 

太陽の光が林床に届き、新しい芽生えがあることでしょう。倒木からはたくさんのキノコが生えるでしょう。春になると陽光を求めて周辺の樹木の枝が伸び、そのすき間を埋めていくことでしょう。寿命の短いツブラジイですが、その萌芽力は強く倒木や切り株から再生して行きます。森は生きているんだな…。 

風の音や鳥の声は鎮魂歌ではなくて新しい命へのお祝いの歌に思えました。

 
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美

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