海辺の生き物【カラマツガイ】
5月の大潮、干潮の磯にはたくさんの生き物が見えます。
岩肌にたくさんの白い指輪…カラマツガイの卵塊です。親貝が回転しながら産卵するので卵塊は「の」の字や指輪のようになります。親貝が卵塊の上にかぶさり守っている様子も伺えます。
カラマツガイは笠の形をしていますが,カサガイ類ではなく分類上は巻貝で、カタツムリと同じ有肺類に属し肺呼吸をする貝として知られています。
貝殻を良く見ると左右対称ではありません、右前方の太い放射肋(矢印)の下に呼吸孔が開いています。
カラマツガイはいったん肺を獲得し陸上に進出したものの、肺の中に鰓の機能を発達させて再び水際に戻ってきたグループと言われています。海辺に暮らす生物の多くが、干潮時は乾燥に耐え潮が満ちてくると生き生きと活動するものが多い一方、カラマツガイは干潮時の磯で活発に動きます。
「あら、お食事中かしら…」
カラマツガイが岩の上の藻を一心不乱に食べています。大岩の下から食べながら上がってきたみたい、這い跡が筋になっていて良く分かります。
貝は歯舌というヤスリのような歯で藻をこすり取るように食べます。
「まぁ、宇品山の森のセトウチマイマイの食事風景にそっくり…」
干潮時には食事のため這い出し、 終わるとまた元の場所に戻るという帰家性がある、また、岩の表面を削り自分の殻がすっぽり入る「自分専用の窪みである家」を作ってぴったりとそれに収まる、と聞きます。しかし、元宇品のカラマツガイは図鑑やインターネットで見られるような「家」が分かりにくいのです。
干潮を迎える磯を訪れました。カラマツガイ達が殻を持ちあげて一斉に活動を始めています。レモンイエローの体が美しい!
やがて引き潮になりました…貝たちは棲み処に戻ったようです。ちょっとお家を見せてもらえませんか?
収まっている?これが「家」かな…
貝殻の縁は周囲の障害物の形に沿って変形していたり、逆に障害物を侵食している様子が見られました。
宇品島は崩れ易い花こう岩で出来ているので磯の岩の表面が脆く平坦ではありません。合せて、牡蠣養殖が盛んな広島湾の特徴として、岩肌のカキやフジツボの殻の上にさらに殻が重なるような状況、などから自分に合わせた窪みが作り難いのかも知れません。そのような環境でも、カラマツガイは潮汐に合わせ逞しく暮らしている様子が観察できました。
また、カラマツガイには殻の高さが低く放射肋とそれを横切る肋の格子模様が弱いものがあり、それが隠蔽種(いんぺいしゅ:本来は別種であるが、外見上の区別がつかず、同一種として扱われていた種)ではないか、という話もあるようです。
参考
写真でわかる磯の生き物図鑑 トンボ出版
貝のからだ 倉持卓司 技術評論社
日淡こぼれ話 カラマツガイ隠蔽種 日本淡水魚類愛護会
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美