元宇品のギンボシザトウムシ
2023年6月30日の夜半に広島県南部地域に広く大雨警報が発令され、元宇品小学区にも避難指示が出るほどの降雨がありました。
頭上からの落下物に注意しながら稜線を北から南に移動します。車道脇に大量の落ち葉が道端に集まっていました。激しい雨で排水が間に合わず車道から谷にオーバーフローしていたようです。
陽が傾きオニグモやサツマノミダマシが網を張り、夜の活動への準備を始めていました。雨が止み動き始めた虫たちが稜線のガードレールに留まっています。周辺のガードレールや電信柱は、谷から上がってくる虫たちの止まり木のようになっているのです。
あれっ⁉何か動いています。
「あっ、ザトウムシだ…」
髪の毛のように細い脚を伸ばし、何かを探っているのでしょうか、近寄ると…
「うわぁ、なんてきれいな緑色!こんなザトウムシは見たことが無い!」と、声に出す代わりに、私の眼はどんどん大きく見開いて行きました。
ザトウムシは8本脚なのでクモと思われがちですがクモではありません。クモは頭胸部と腹部がはっきり分かれるのに対して、ザトウムシは頭胸腹が一つになっています。また、クモは糸を出しますが、ザトウムシは糸を出しません。クモやサソリの生殖行為は精子の入った袋の受け渡しですが、ザトウムシのオスは雄性生殖器を持ち直接交尾します。
この美しいザトウムシを調べてみました。
目立つのは緑色の体色と左右の白い斑紋です。背面中央には1本の棘が見えます。
ザトウムシの図鑑というのは無いに等しく頼りはインターネットの情報です。
緑のザトウムシ…白い斑紋があって…きれいなザトウムシ…は…
気になったのが『ギンボシザトウムシ』…記述を調べていくと、
本種は屋久島から沖縄諸島の最普通種で、九州南部を北限としている。
沖縄県ヤンバルの森で撮影。
山口県、福岡県、佐賀県、鹿児島県、そして屋久島・種子島〜沖縄本島にかけての琉球列島に生息しているようだ。
どうやら琉球列島や九州南部に生息していたものが北に向かって生息地を拡げているようです。
過去に同じ場所で撮影した写真を見直すと、ギンボシザトウムシの幼体かも知れない、と思われる物もありました。(2023.5.14 16:38)
川野 敬介 ・鶴崎 展巨. 2013. 山口県のザトウムシ類 によると
「ギンボシザトウムシ …腹部第2背板に1本の長い棘がある.体は黒褐色で腹部背 面の前方につく1対の白斑のようにみえるワックス状の分泌物が目立つ(これは雌では目だたないことが多い).本種は,先島諸島をのぞく琉球列島で普通種となっているザトウムシで,九州本土では鹿児島県の南端部で生息が知られているのみであったが,最近,山口県で生息地が見つかったのにつづき,佐賀県,福岡県,宮崎県でも生息地が確認された(鶴崎ほか,2011;山田・岩切, 2011).山口県内では宇部市小野湖周辺の数カ所と 山口市名田島地蔵院で知られていたが(鶴崎ら,2011),今回,さらに山口市秋穂二島(二島中学校)でも新たに生息が確認された.当地での生息数は非常に多く,中学校の校舎の中で見つかることもあるとのことである(中村孝氏 私信).山口県は本種の分布北限に相当する. 」
とあります。と言うことは元宇品のこのザトウムシがギンボシザトウムシだと判明すると、分布北限の新記録の一助となるのかも知れません。
参考
ギンボシザトウムシ(クモガタ綱ザトウムシ目)の九州本土と山口県からの新記録 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター (jst.go.jp)
第16号(実画編集)/23川野(山口県のザトウムシ類 (core.ac.uk)
ギンボシザトウムシ 幼体 | 私家版里山図鑑 (ameblo.jp)
ギンボシザトウムシ 7年ぶりの再会 | 私家版里山図鑑 (ameblo.jp)
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美