クスノキの実に付く『白いの』は何?

この春先の雨の多さはどうでしょう…止んでは降り、降っては止み、また今日も雨降り…

それでも2023年の夏~秋にかけての尋常でない少雨と高温の記憶が、この雨を嬉しく思うのです。

雨上がりに尋ねた宇品山…小学校のモニュメントから南に向かって歩きます。

道路脇の苔の斜面では、トーストから染み出たバターのように水が滴っています。目を凝らして見ていると…「これは何だろう?」

小さな黒い木の実に『白いの』がくっ付いている!

ここにも、あそこにも…歩いた先にもまた、あった!どうやら宇品山全域で見られるようです。

黒い実に白い星が付いた様は美しくもあり、この『白いの』の正体に俄然興味が湧いてきました。

黒い実はずいぶんと朽ちて、皮はしわしわで萎んだり破れたりもしています。

良く見てみると、それはクスノキの実でした。クスノキの実は秋に黒く熟します。表面はつるつるして光沢があり黒真珠のよう、実の基部がカクテルグラスのような杯状になっているのが特徴です。

写真:上半分には古い実、下半分には黒く新しいクスノキの実があります。

あたりにはどんぐりや落ち葉、朽木や他の実もありますが、不思議なことに『白いの』が付いているのは転がっている古いクスノキの実だけです。『白いの』は瑞々しく不定形で豆型や極小のキクラゲのような形もあります。…変形菌の若い子実体にも似ているような、似て無いような。

「『白いの』はキノコじゃないかしら…古いクスノキの実を好むキノコ!そんなのがあるのかしら⁈」

「クスノキの枝葉には抗菌作用のある成分があるはずで、それは実にも。新しい実には付かないが、抗菌成分の失せた古い実はキノコの餌になったのかも…だけど周囲のどんぐりや小枝には付いていないのは何故だろう…」と妄想が止まりません。

採集した『白いの』をキノコの専門家に見ていただくことにしました。

「下処理して観察しました。全体が菌糸の塊で、菌糸がほうき状に枝分かれし、キノコ特有の繁殖組織もなく胞子が確認できませんでした。カビの仲間のようです。」とのこと。

キノコとカビは両者ともに菌類ですがその違いは、胞子を作る器官がキノコの場合は肉眼で見えるくらい大きくなり、カビは大きくならないという点です。

  キノコの群生 元宇品港公園 2019年8月

植物が花を咲かせて種を撒くように、いくつかの菌類は、子実体としてのキノコを作り胞子を撒くのです。

あぁ、『白いの』はカビなんだ…

カビについて調べていると、胞子を作る前のカビの殆どは白く見えるそうです。

あれから何度も宇品山を訪れました。芽吹いた木々の下を歩きながら、そこここに『白いの』を見つけた私はつぶやきます。私、あなたのこと誰だか知っているのよ、と。

参考

カラスブログ2018年12月23日 クスノキの実 (carasblog.net) カラスブログ2018年12月23日 クスノキの実 (carasblog.net)

NPO法人 樹木研究会こうべ 木材腐朽菌防除実験(後編) (fc2.com)

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会

副代表  畑 久美