君の名は…林縁のコガネグモ

元宇品では季節と場所によって様々なクモを観察することができます。森を背にするマンション裏の通り道は密かな観察エリアです。
「あら、こんなところに!」

謎のクモの写真(白帯あり) 2021.9.19
謎のクモの写真 2021.9.23

クモの脚は8本ですが、それを2本ずつ揃えて、丁度アルファベットのXの形になり、網の中心で下を向いて構えています。網の端をちょんと触ると、あっという間に逃げ出しました。神経質なクモのようです。

コガネグモの仲間(メス)に違いないけど、どの種類かなぁ…家に帰って写真を見なおします。頭の中にいくつかの候補が浮かびました。

この辺りのコガネグモの候補は次の4種、『コガネグモ』『チュウガタコガネグモ』『コガタコガネグモ』『ムシバミコガネグモ』

コガネグモ 20~25mm
チュウガタコガネグモ 15~18mm
コガタコガネグモ 8~12mm
ムシバミコガネグモ 15~18mm

写真:フィールド図鑑クモ・著者 新海栄一、高野伸二 東海大学出版会

見た目で判断するのは中々に難しい…色や模様や大きさで比べようにも、亜成体(大人になる前の若い個体)かも知れないし…。インターネットには画像が氾濫していて益々悩んでしまいました。

取りあえず、このクモの情報をまとめます。
・性格は神経質。
・腹部の斑紋を含めて赤っぽい、腹部の黄色い横縞は分断されていない。
・脚の縞々は目立たない。
・白帯(隠れ帯)はXの一部しかない。
・体長は12mmくらいか。
・傍に卵のうがあるので、このクモは成体と考えてよいのでは…
・鉄製フェンスの枠を利用して網を張っている。

まとめているうちに候補が絞られてきました。
大きさからみて、コガネグモではないだろう。腹部の黄色い横縞が分断されていないので、チュウガタではないだろう。…。コガタコガネグモは網を張る時に人工物も積極的に利用します。臆病で近づくと網から飛び降ります。白帯のXも一部を省略することがしばしばあるらしい…コガタコガネグモの公算が大きくなってきました。その一方で、ムシバミコガネグモのお腹の側面はややでこぼこしているが、模様は大変よく似ている…。

コガタか、ムシバミか…多分コガタ…
資料を読み込むと、「正確に同定するには外雌器(がいしき)の形態を確認する必要がある」同定とは名前を決めること、外雌器とは雌の生殖器のことです。写真をいくら眺めても結論は出ません。
ひと月ほど悩んだ末、ついにこのクモを捕獲してお腹を見せてもらうことを決心しました。

クモの腹面の写真 2021.10.16

外雌器の写真 と説明

「ああ、君はコガタコガネグモ!次に会った時にはちゃんと名前を呼ぶね。」

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美

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