アリグモの観察 其の2

再び元宇品の稜線にやって来ました。

車道のガードレール

嬉しいことに今日はオスとメスが近くにいます。シャッターチャンス!うーん、何度写真を撮っても、オスは黒々とはっきり映るのですがメスはぼやけてしまいます。目を凝らして良く見てみると…メスの上には薄いベールがかかっていて、その奥にメスの姿があったのでした。

オスとメス 2022.5.8

写真説明:アリグモのオスは巨大な顎のおかげで大きく見えます。

アリグモは獲物を捕るための網は張りませんが、糸で作った繭のような『住居』を作り、その中で脱皮や産卵をします。大人になる直前のメス(亜成体のメス:あと1回脱皮をすると成体になるメスのこと)は脱皮が近づくと自分の周りに繭のような網を張ります。オスは亜成体のメスをさがして結婚相手とします。オスは脱皮直前のメスを見つけると、メスをガードするように近くで様子を伺います。メスが自分の周りに小さな網を張ると、オスはその上に一回り大きな網を掛け住居(産室)が完成します。そこで交接と産卵をするということです。

ガードレールに何度か通ううちにカップルを観察するチャンスに出会いました。

住居のオスとメス 2022.6.6
住居のオスとメス 2022.6.6

6月6日、メスは住居の奥に潜んでいます、オスの上にも薄い網がかかっています。オスはメスが気にかかるようで、メスに向かって前脚を上げたり方向を変えて周囲をうかがったりして落ち着きません。オスはメスが脱皮する瞬間を待っているのでしょうか…

メスと脱皮殻が並んでいる 2022.6.7

6月7日、アリグモのカップルが気になって昨日の住居を観察に来ました。オスの姿は住居にもその周辺にも見当たりません。住居にはメスのみ、良く見るとメスの傍らに何かあります…脱皮殻のようですからこのメスが脱皮をしたのでしょう。…ということは最終の脱皮をして成体になったメスはすでに交接を済ませて、次は産卵をするのでしょうか。

メスが脱皮殻を捨てた 2022.6.8

 

6月8日、住居のメスが気になったので観察に来ました。住居は楕円形でクモの糸で作ったドームのような形状です。彼女はその中にいるのですが、あれれ…昨日傍らにあった脱皮殻が無くなっています。周囲を捜すと住居の右下に引っかかっていました。昨日は住居の中にあった脱皮殻、脚や触肢までもがきれいに抜けた「あんな引っかかりやすいもの」が風で飛ばされることは考えられません。私は、彼女が産室である住居を清潔に保つためにわざわざ脱皮殻を捨て去ったのではないかと考えました。そうだ、脱皮殻を持って帰って見てみよう!

脱皮殻の拡大写真

脱皮殻を拡大して見てみると…触肢や細い脚先まできれいに抜けています。脚の付け根も良く分かります。顎の形からメスのもので間違いありません。蝕肢の形もアリグモのものでした。

6月11日

あれから彼女はどうしているのでしょう…気になって週末に住居のメスを訪ねました。

糸を紡ぐメス 2022.6.11

メスは住居の中で後脚をしきりに動かしています。お尻の糸いぼのあたりを何度も脚で手繰っているように見えます。「卵のためのベッドを作っているのかしら…」私は以前、ジョロウグモが産卵する前に卵を産み付けるベッドを作る動画を見たことがあります。お尻から出した糸を小さなループ状にしてタオルのようなふわっふわのベッドを作るのです。メスの仕草を眺めながらそんなことを思い出していました。翌日、住居から彼女の姿は消えていました。

追伸

観察の途中でアリグモの別種を見つけました。

ヤサアリグモ 2022.5.26

写真説明:ヤサアリグモのオス 上顎は頭胸部よりも長く、第1脚が黒くありません(アリグモは黒い)。腹部は細くアリグモより華奢に見えます。アリグモよりも若干自然度の高い環境を好むそうです。

1週間ほどオスのアリグモを飼ってみました。

クモは乾燥に弱いので、容器の隅に小さな水たまりを作ってあげました。すると、容器の天井に居たアリグモが大急ぎで降りてきて「ゴクゴク」と水を飲むのです。クモにはお水が欠かせないと知ってはいましたが、まさかの「ゴクゴク」には少し驚いてしまいました。アリグモさん、まだまだ知りたいことが一杯です。

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美