宇品島の歳時記【睦月 ヤブツバキ】
松の内の明ける1月15日に「とんど祭り」が開催されました。
お正月とはご先祖である年神様を各家にお迎えする行事です。神様は家々に飾ってある松の枝を頼りに帰ってきます。そしてその松はそのままお正月の間,年神様の依り代にもなります。この松(しめ飾り・門松)や鏡開きしたお餅などは小正月である15日にとんどで焼き清めます。
このとんどが行われる次期に森を歩くとあちらこちらに紅い花が見られます。宇品島を代表する花木であるヤブツバキです。椿の字のごとく春を代表する花ですが,早咲きの花は毎年12月頃には咲き始め,冬から早春にかけて咲きます。
日本固有の常緑の小高木で宇品島で観られる高木は15mを超えます。
冬は花を訪れる昆虫が少なく,花粉の媒介の主役はメジロやヒヨドリなどの小鳥達になります。ですからヤブツバキが開花する時期になるとメジロなどの小鳥達を多く見かける事ができます。
ヤブツバキの葉の表面にはクチクラが発達しており光沢があります。
植物のクチクラは,表皮の外側を覆う透明な膜で蝋を主成分とします。宇品島の海岸にはクチクラ層を持つ木が多くあり,これによって塩害から樹木を守っています。照葉樹林というのはヤブツバキのなどのクチクラ層が発達した樹木の葉の表面が照って見えることに由来するそうです。
ヤブツバキを原種として多数の椿の品種が作られましたが,私は冬の森の中に咲くヤブツバキが大好きです。
アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
坂谷知子