木の洞(うろ)を覗いたら

森歩きの楽しさの一つは、日常とはかけ離れた異空間を歩く楽しさです。
元宇品の森はクスノキやツブラジイ、カクレミノやクロキなどの広葉照葉樹が空を隠すように枝を広げ、昼間でも森の中は薄暗く、また木の根はぐにゃぐにゃと地表を這い、時におとぎ話の世界にいるような気分になったりします。



木の洞のことを『樹洞』(じゅどう)と言い、元宇品の森には沢山あって、この数年樹洞を覗いてまわるのが私の森歩きの習慣になっています。森の秘密を探るようなあのドキドキ感がたまりません。

鏡よ鏡!いえいえ…樹洞よ樹洞!あなたは何を隠しているの?

マイマイ
ケシキスイ
カナブン
オオゲジ
ワラジムシ
ウズグモ

カタツムリ0?本、昆虫6本、ゲジゲジ30本、ワラジムシ14本、クモは8本か…脚の数を考えただけでも樹洞に暮らす生物の多様性が見えますね…

たくさんの生物の棲み処になっている『樹洞』、それにしても元宇品の森には色々な形、様々な大きさの洞が沢山あります。洞は枯れた木だけでなく、生きている樹木にもたくさんあります。

元宇品の樹洞

樹洞はどうやって出来るのでしょうか…
鳥が突いたり枝が折れたりして木に傷がつくと
そこから木材を腐らす菌(木材腐朽菌)が侵入します。

カンゾウタケも木材腐朽菌です


菌によって、死んだ細胞で出来ている木の内側が分解され、そこが空洞になります。
木材が腐りはじめると、木の生きている組織から菌に抵抗する物質が分泌されて防御壁がつくられます。
傷口の周辺では、形成層がさかんに細胞分裂して傷口をふさぐので、空洞の周縁が盛り上がって見えることがあります。

縁が盛り上がった樹洞

木の生きている部分は樹皮のすぐ内側なので、内部に空洞が出来ても木にはそれほど影響がありません。調べていると、樹洞は主に広葉樹で出来るという記述を数多く見かけました。
しかし、何故広葉樹で出来るのか、針葉樹には出来にくいのか…その理由を容易に知ることが出来なかったので、広島森林管理署に問い合わせてみました。

広島森林監理署

木材腐朽菌についての研究発表をしている文書の中に、「針葉樹はテルペンや樹脂といった抗菌性の抽出成分を多く含んでおり、限られた種類の腐朽菌しか分解することができません。」とのこと。広葉樹は針葉樹に比べて菌に攻撃されやすい、それで樹洞も出来やすいということなんだ…。

カワラタケの木

なるほど…元宇品のような広葉照葉樹林の森の木には樹洞が出来やすく、生物の多様性に貢献しているということか…。確かに、森の中のコジイの倒木にはあっという間に菌(キノコ)が取り付き数年で腐朽していきます。

針葉樹の倒木

一方でわずかにあるヒノキやスギの倒木は年月を経てもあまり腐っていません。

参考                             
木材腐朽菌の比較オミクス解析から針葉樹分解のメカニズムにせまる
東京大学大学院農学生命科学研究科の研究成果

アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
副代表 畑 久美

前の記事

元宇品の光るキノコ

次の記事

住𠮷神社と常夜灯