キツネの小判

「キツネの小判」ってご存知でしょうか?
2020年11月の『地球さんぽ』で森の小径を歩いていた時のことです。それまで退屈そうにしていたチビッコ達が,突然にハゼの実の塊を手に持ち,「やった!」「すごい!」と盛り上がっていました。理由を尋ねると,「キツネの小判なんよ!」と目をキラキラさせながら答えます。

ハゼの実の塊

子ども達は「100個集めると願いが叶う~」と言い,幼稚園や小学校ではとても素敵なアイテムらしいのです。残念なことに11月のこの実は落ちただけで,まだ正確には小判にはなっていません。

ハゼノキの実

キツネの小判の正体はハゼノキの種です。和ろうそくの原料にもなるハゼノキの実には多くの脂肪分が含まれます。夏に花が咲き,秋に熟した実を鳥達が好んで食べます。鳥の胃の中で脂肪分が消化された後,種はフンに混じって地面に落ち,雨で洗われて種だけが残ります。なるほど,黄金色の小さな楕円形はまるで小判のようです。

ハゼノキの種

元宇品の山では,2月から3月にかけて森の中やそこいらじゅうに落ちていて,あっという間に100個集めることができました。虫や花の少ない季節でも,子ども達が身近な自然に目を向けることが出来る切っ掛けが,この森にはあります。

元宇品の東側にある金輪島では,1749年(寛延2年)から商人の平野屋が請山として借り受け,ハゼノキ・ウルシの植樹を始め,大規模な蝋(ろう)の生産が20年間にわたり行われました。このため,元宇品では鳥が種を運んだと思われるハゼノキがあちらこちらに見られます。

紅葉したハゼノキ

このコラムの原稿を書いていると,偶然にも小判のお話をしてくれたチビッコのご両親からお便りがありました。4月に転勤になり広島を離れられたとかで「地球さんぽではお世話になりました。広島に帰ってきたらまた必ず参加します。」とのご丁寧なご挨拶を頂きました。

『地球さんぽ』という素敵な出会いに,「キツネの小判が幸せを招いてくれる。」というのはあながち間違いではないな,と私は感じました。

※ハゼノキはウルシ科で皮膚炎を起こすウルシオールという成分が含まれています。春の木の水分が多く蒸散の激しい頃には、肌の弱い人は木に近づくだけでもかぶれてしまいます。葉や枝には触らないようにした方が良いでしょう。


アース・ミュージアム元宇品 自然観察ガイドの会
坂谷 知子

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